Histoire d'O selon Oraclutie

白いスカートとノラの鞭
-- J.ジャカン『O嬢の物語』未発表場面

1975年のジュスト・ジャカンの映画『O嬢の物語』について、ヴィデオやDVDパッケージのカヴァー、当時の雑誌記事などに掲載されている写真を見ていると、ときどき映画の中に含まれていないものが見られる。それらは映画の宣伝用に特別に撮影された写真であったり、映画の一シーンを撮影時に別にとった写真だったり、編集時に使用されなかったテイクやカットされた部分であったりする。カットされた部分にも、単にあるシーンの前後数秒間のショットであることもあれば、筋書きにかかわるもので、まったく削除された独立の場面であることもある。そのように削除された場面の一つは、Stefan Prince 氏のサイト storyofo.co.uk にも Lost scene from Just Jeakin's Histoire d'O として紹介されている。

こうした不採用シーンがこの他にも複数あるだろうということは、およそ映画というものの製作過程からして、ごく自然に推測されることだが、掲示板で映画関係の詳しい情報を寄せてくれる Yajiuma 氏が75年の『スクリーン』誌の資料を好意で送ってくださり、その際にそこに掲載されている写真にそうしたシーンがあることを指摘してくださった。その情報と資料を元に、私たちのほうでもいくつか調べたことをまじえながら、その中でも最も重要な一つのシーンをここでとりあげてみる。

百聞は一見にしかず。問題の写真とは ;

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これは『スクリーン』誌(1975年、4月臨時増刊号)のものだが、フランスで大論争を引き起こした『レクスプレス』誌(no.1260、1975年、9月1-7日号)には同じ場面の別ショットが掲載されている :

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「ノラに鞭打たれるO」とでも名づけるべきシーンだが、さらに『スクリーン』誌の別の場所では、鞭打とうとするノラをステファン卿が止めているショットがある。

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こうした一連のショットは、公開された映画版には存在しない。ノラがOを鞭打つのは、映画の中では、アンヌ・マリーの家の音楽室の舞台を模してステファン卿が自宅に作らせた場所で行われているのが暗示されているが、このショットのものとは舞台設定がまったく違う。製作過程でアイディアとしてあった、ノラによるOの鞭打ちを具体的に描くこのシーンがなんらかの理由により編集時にカットされたと考えてよいだろう。

さて気になるのはこのシーンがどこに挿入されていたかであるが、実をいうと確実に推定する手がかりがあまりない。原作にはOがノラに鞭打たれるシーンを具体的に叙述していないのでストーリーの上でこれと特定することができない。

上のショットで目をひくのがOのスカートだが、このスカートが何かてがかりになるかもしれないと考えてもみた。Yajiuma 氏の指摘するとおり、『スクリーン誌』には、Oがこのスカートを穿いてノラが写っている別のシーンが見える。

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明らかに、フィナーレの「ふくろう」の夜会のための支度で、対応する場面は1時間35分15秒めから50秒めくらいのところだが、このスカートのショットは出てこない(Oの下半身は見えない)。ノラによる鞭打ちの場面はこの直前にあったのだろうか。

実は映画でもこのスカートを穿いたOが出ているのを、DVDを見直していて発見した。時間でいうとちょうど1時間めから20秒ほど続くところで、Oがジャクリーヌを誘惑する目的で自分のアパートに引っ越させてくるところで、「ふくろう」より30分以上前になる。

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これらのシーンで見るとかなり長いスカートであることがわかる。すべてが整合する推測は、「ふくろう」の支度にOはこのスカートを着てステファン卿の家に行き、そこでノラに打たれるというのものか、でなければジャクリーヌとアパートにいるシーンとふくろうの仮面の支度の間のいずれかの時点にまた別にOがこの白いスカートでノラに打たれるというものだが、どうもしっくりこないものがある。スタイリストがファッションにこれほどうるさい映画(衣装協力はCerutti)の中で、どちらかというとホームウェアのような地味な同じスカートでヒロインが2度あるいは3度現われるものだろうか。

あれこれ考えているうちに思いついた別の説明は、このいかにも着脱しやすそうなスカートは、上のジャクリーヌとの場面以外では、撮影中、裸になる必要がないときの主演のC.クレーリーの普段着になっていたのではないかというものである。上半身しか写らないとき、簡単なリハーサルのときにまでずっと下半身まで裸でいる必要はない。そういうときのためにこのスカートが使われているのではないか。とすると、このスカートは撮影のいろいろな場面で着られていたわけで、ふくろうの仮面と普段着のような何の変哲もない白いスカートという組み合わせの不自然さもこれで解決がつく。問題の鞭打ちシーンの場面でもこのスカートはそういう役目のものだったのかもしれない。

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