Histoire d'O selon Oraclutie

『O嬢の物語』を読む - 「ロワッシーの恋人たち」
第7回, Voici comment ils étaient faits : ...

首輪と腕輪の構造が説明される。服飾だけでなく、器具の構造の説明にも作者の筆は精密だ。

薄い革を何層にもに重ね合わせてできているバンド(語の定義上、腰回りに締めるものを指す 「ベルト」の語をこの種のアクセサリーに拡大使用するのは賛成できない)。南京錠のような留め金の装置でカチリと締まり、留め金の反対側には金属の環がついている。金属の環は首輪と腕環に留めるのに使われる。というのも、肌に傷がつかないほどの余裕はとってあるものの(bien qu'il y eût assez de jeu pour ne pas du tout blesser)、腕輪も首輪も、どんな紐もすべりこませることができないほどぴっちりしているからだ(il était trop serré au bras et le collier trop serré au cou ... pour qu'on y pût glisser le moindre lien.)(別宮氏の英語の翻訳時評であれば、中学生英語との皮肉が聞こえてきそうな、この構文を正しく読んでいるのは残念ながら長島訳だけ)。この首輪と腕輪がはめられると、男はOを立たせ手袋をした手で腿の間と胸を撫で回す。そして、人々に紹介されるのを待ちながら、Oはこの小部屋に一人残され食事をすることになる。

食事が済むと、二人の女が迎えに来る。腕輪を後ろ手に留められ、首輪の環にとめた足元まで体を包む赤いケープを肩からかけて歩かされる。Oの姿を想像してみよう。金属の環が光る(たぶん黒の)革の首輪と、腕輪。歩くたびに裾の開く赤いケープ。足には赤いミュール。Oの前の歩く女ががドアを開け、後ろの女がドアを閉じる。入り口のホールを横断し(すなわち違う側のウィングへ渡るということになる)、2つの広間を通り抜けると、図書室に入る。そこには男が4人。すぐに目の前にかざされたライトのまぶしさでOが男たちの顔を識別する時間はなく、そこに恋人がいたかどうか見極めることはできなかった(実際にはいた)。ライトが消され女たちが去るときにはOはすでに目隠しをされている。よろめきながら前に進まされOは暖炉の前に立たされる。暖炉がパチパチ音を立てているのが聞こえる。この図書室のシーンで、目隠しがとられるまで、Oに残されているのは皮膚感覚と聴覚だけであるが、暖炉はそれを巧妙に描写する道具立てとなっている。ケープを取られ、腕輪で後ろ手に拘束されたまま、男たちの手が体を探索する。指が2つの孔に侵入する。倒れこむのを支えられ、後ろ手のままひざまずかされる。修道女のようにかかとの上に尻をつけて。

男たちの会話がOの耳に入る。「まだ彼女を縛ったことはないのかね」−−「いや、一度も。」−−「鞭で打ったことも?」−−「それもないのです。だからこうして...」、答えているのは恋人だ。(男たちはお互いvousで話している。馴れ合った仲間たちでない)。別の声が言う−−「そう、だから、彼女をときどき縛り、少しばかり鞭で打って、彼女がそれで快楽を得るようにする、そういうことではないのだ。彼女が快楽を得る段階を通り越して、涙を引き出すようにしなければならない。」(justementのニュアンスをどう簡潔な日本語にするかは一筋縄ではいかないが、少なくともこれは、à vrai dire でも honnêtementでもない)。

Oを立たせ鞭打ちの準備が始まったところで一人の男が異議を唱え、先にその体をものにすることを要求する。尻を背中より高くあげクッションにうつぶせになったOの腹中に男が二人、次々侵入し、3番めの男は後ろの狭いほうの通路を切り開こうと(動詞 se frayer はそこが未開拓であるという暗示を与える)、乱暴に押し入り、Oに悲鳴をあげさせる。涙とともに床に崩れ落ちるOを待っていたのは、口への陵辱である。この部分は具体的に描写されずに、巧妙な暗示で表現される。 "Ce fut pour la sentir des genoux contre son visage, et que sa bouche ne serait pas épargnée." ことが終わるとやっと、男たちはOを、後ろ手の縛めはそのままに(captive)、仰向けにして暖炉の前にその赤い金ぴかのケープ(ses oripeaux rouges)にくるんで寝かせる。 澁澤訳も鈴木訳も字義どおり訳すことをあえて避けているこの oripeaux という語は、(語源的には金糸銀糸などで)「派手でけばけばしいが実のところは古いすり切れの見える衣装」という否定的な意味を持っている。作者の中には、ロワッシーのすべてを美的に理想的な貴族的なものように描くことにとどまらないある種醒めた視線があり、それが最初削除された終章「ロワッシーへの帰還」に結びついているわけだが、そのひとつの現われがこの語彙の選択に垣間見られる。長島訳、「赤い安っぽい衣装」。

陵辱の後Oが次第に意識を取り戻していくのを巧みに描写するのが、目隠しをされた彼女の聞く音である。グラスに飲み物を注ぐ音、誰かがそれを飲む音、席を移動する音。暖炉にあらたに火を掻き立てる音。と、突然目隠しをとかれ、視覚が戻ってくる。室内の照明は小卓の上の弱い光だが、そこを、今しがた勢いを得た暖炉の火がゆらめきながら赤く照らす。その光の中に、立って煙草を吸っている二人の男、乗馬鞭を膝に置いて座っている男、そして彼女の上にかかがみ乳房を愛撫している恋人。確かにそこに恋人はいたのだ(最初に描写されたように彼女はこの時までルネがこの四人の中に含まれていたかどうか確かめる時間がなかった)。"Mais tous les quatre l'avaient prise, et elle ne l'avait pas distingué des autres."「彼らは4人とも彼女を所有したのにもかかわらず、彼女は恋人を他の男たちと区別できなかったのである」(長島訳)。さらりと書かれているが、Oにしてみれば、自分が熱烈に愛する恋人を自分の体にとって匿名の一人にしかすぎなかったということは、悲しみと、屈辱の感情をもたらすものに違いない。実際、後で見るようにその夜、Oは自分の後ろを2度にわたって犯した男が自分の恋人であってほしいと祈るように思い、それを知りようがないことに心を乱す。

2節めの2つ目の段落がここで終わることになる。この段落は、前回の解説の途中の、彼女の化粧が終わって支度ができたと述べるところから、ここまで、澁澤訳でいうと7段落分を、を一気に描写している。




6. Alors je sais qu'elles ont défait les mains d'O ...
8. On lui expliqua qu'il serait toujours ainsi, ...



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