J.ポーランの序文「奴隷状態における幸福」は、別ページに譲り、まず、本文の、Oが恋人のルネとの散歩の途中、車に乗せられ見知らぬ館まで送り届けられるまでの冒頭部分を以下、何回かに分けて見ていくことにするが、その前に本文がどのような区切りによって構成されているかについて一言。
『O嬢の物語』本文の最も大きい区切りは、章だてで、全体は以下の4つの章からなっている(1969年出版の「ロワッシーへの帰還」含まず。章名の訳は澁澤訳に従う)。
第1章 ロワッシーの恋人たち
第2章 ステファン卿
第3章 アンヌ・マリーと鉄環
第4章 ふくろう
この下のレベルの区切りは、いくつかのパラグラフからなるブロックで、これは原文では一行空きで境が示されている。このブロックをここでは以下、「節」と呼ぼことにしよう。「節」の区切りは邦訳でも空白行で示されている。たとえば第1節は冒頭から、ルネのセリフ「ああ、ぼくもあとから行くよ。きっとね」(澁澤訳)で終わる文まで。第2節は「別の書き方をすれば」で始まる段落からになる。この定義で第1章は7節からなることになる。
節の下にくる区切りが、字下げで開始が示される、いわゆる「段落」(パラグラフ)であり、邦訳でも一字下げで示されるが、ここで注意を促しておきたいのは、原文の段落分けと邦訳の段落分けは必ずしも一致しないということである。原文は、一文の平均的な長さもパラグラフもかなり長く、一段落が数ページにわたることもある。こうした長い段落を日本語版では、読みやすさのため、訳者が必要に応じていくつかの細かい段落に分けている。例えば冒頭部では、原文の2つめの段落は、"《Voilà》, dit-il tout à coup."の文ではじまるパラグラフであるが、澁澤訳ではこれに対応する「『着いたよ』と彼が急に言った」からの段落は4つめの段落であり、原文の最初の段落が、澁澤訳では3つの段落に分けられている。第1節は原文では3つの段落からなるが、澁澤訳では5つの段落からなる。鈴木訳、長島訳は段落分けがさらに細かく、また会話文のたびに改行するので叙述における構造的な段落の概念はあいまいになっている。英語版のd'Estrée訳でも段落の小分けは行われている。
あらかじめこのことに注意を促しておくのは、訳者が後から加えた段落分けは、リズムや物語の展開の解釈の仕方に影響するからだ。原文が段落を変えず一気に叙述している場面に段落分けを入れると、その位置によって、論理的関係や時間関係のとらえかたが多少異なってくる。原文の長い段落を読者がどう区切るかは、その人の解釈により言ってみれば自由であり、翻訳での段落分けは一つの可能性にしかすぎない。
なお以下の解説でのページ分けは、解説の長さ、作成時の時間的制約などその場その場の都合によってもたらされたものであり、必ずしも原文に対する私自身の構造的な分節ではない。
→ 1. Son amant emmène un jour O ...
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